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ポップン(15多め)を中心に扱う自己満足ブログです。シグフィリとかリアシグとか大体Σ様ばっかり描いていると思われます。自己設定・解釈が顕著なzektbachについての文章も少々。 キリ番は自己申告で。(健全志向・管理人の描けそうなジャンルでお願いします) なおこのサイトは二次創作サイトであり、製作者様とは一切関係がありません。 ご理解の上で当ブログを閲覧するようにお願いします。
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暗く静かな空間の中、超越者が考え、見出した事とは。

 










   超越者は隠れ場所を求め、船内を駆ける。先ほど彼女に言われた言葉を思い出して、今度は出来るだけ大きな足音は立てないようにした。配役は、リアンが隠れる方、Σが鬼役。途中から走らせる足を遅め、忍び足になる。足音で、今から隠れる場所を悟られないためだ。大丈夫、身を隠すための時間は十分にある。この広く部屋数の多い船内では長期戦になるだろうと予想されるので、カウントの時間は長く取っている。船内の通路はコの字型に二つに分かれていて――その中央の辺に当たる場所の、外側が船外の扉へと通じている。内側にあるもう一つの扉を音を立てないようそっと開ける。地下へと続く階段が、続いていた。

   超越者の隠れた場所は地下の倉庫。から続くとある場所。その奥にあるリネン室、大量の布団が置いてある棚の、その天井裏。天井ぎりぎりまで、布団や大箱が詰まれていて、暗がりもあってその入り口は分かりにくい。布団の壁を登って、体重でへこんだその隙間を使って器用に内部へと滑り込む。這いこんだその手にざらざらとした埃の感触が伝わり、ああ、また彼女に叱られるななどと頭の隅そんなことを思った。

  入ったその中は天井が高く、幾つかの大箱が積まれていて、その中には長さの整った清潔そうな干草が詰め込まれていた。おそらく、寝具の詰め物に使うのだろう。それが半分ほどになっている箱があったので、そこに入ることにした。そして、その前に、超越者は手に持っているランプを掲げ、部屋の隅が見渡せるよう照らし出す。扉があった。そこには交差させた二本の紐が張られていて、簡素な形で封鎖されていた。その中央に掛けられている、『関係者以外立ち入り禁止』の看板――この場所は一階まで吹き抜けているのだ。そしてこのルートを通ってしか、ここに辿り着くことは、出来ない。地下倉庫自体がかなり雑然としていて、空き箱、古毛布、今は誰も使っていないがら空きの棚など、他にも隠れられそうな場所がいくつもあるから、かなりの時間稼ぎができる。

   一緒にかくれんぼをしてほしいだなんて、少し幼稚なお願いだったかもしれない。入った箱の中、超越者は一人照れ臭さを誤魔化すために少し笑った。その小さな声が、暗室に響く。



   予想通り超越者はなかなか見つけられる事はなく、時間は過ぎていく。ランプも消してしまい、暗闇の中では五感がほとんど遮られ、脳内に情報が全く入ってこない。感覚的刺激の空疎――つまりは、退屈だ。

   以前はこういう空いた時間も、世界の構成を紐解くための、知的好奇心に費やしていたのだが――今の自分には、それが無い。全てを理解したことによって、動機がなくなってしまったから。故に超越者は、一般の人のそれとは少しほど、退屈に慣れていなかった。何も、考えることが無いというのは、今まで人生の大半を知的好奇心に費やしてきた彼にとって、ただ純粋な虚無感を与えるものであった。痛みも嘆きも無いひたすらな空白。まるで心の一部が欠けたようだった。

   リスタチアの解明という重大な使命が代わってあるのだし、そのことに関して、リアン自身悲観的な感情は持つことは無かったが、ただただ、空虚だった。まるで、動けばかさこそと物寒い音を立てる、乾いた草と空っぽの空間で満ちたこの空き箱のような。

  「退屈というのはですね、本当に嫌なものですよ……」

   暗闇の中、誰に呟くともなく、超越者は一人ごちる。あるいは、ここにいない誰かに呟いているのだろうか。緩慢な意識が、過去へと、戻っていく――。



   あれはリアンが義父であるゲッティンゲンに預けられる少し前の事だった。今までおぼろげだった記憶。それが少しずつ輪郭を得ていくのが分かった。

  『ごめんなさい』

   その時の自分は、揺りかごの中で揺られていた。揺りかごの上から、赤子の自分を覗き込み、実母がこう呟いているのを聞いていたのだ。写真のように、鮮明に浮かび上がる光景。悲しげな瞳はいっそう翳りを得て、長い睫も目元に陰影を与えるだけの役目しか果たしていない。髪の色は、くすんだ灰色をしていた。それは光に照らされていたのなら、さらさらと輝く銀糸であったはずなのに。そうか、自分の髪の色は、母に似たのか。

   今までこのことを思い出さなかったのはどうしてだろう。超越者の能力によって曖昧な記憶をも取り出せるようになったのだろうか?それとも。

  ――それとも、無意識に思い出すことを拒否していたのだろうか?

   瞬間、心臓がどくんと脈打った。いけない。リアンの中の平静を求める心が、そう諭していた。しかし、溢れ出る思念を押しとどめることは出来ず、鮮明となった記憶が奔流のように表層の意識に流れ出る。

   実母は赤子である自分に語った。彼女が自分を育てるには不適格であること。このような業を背負うまでも、彼女が自分の課された運命に耐える事ができなかった事。話の間に何回も何回も挟まれる、『ごめんなさい』の言葉。このままでは互いに不幸になるであろうと、だから自分をこれから父の親友である大司書に託すと。それが一番最良なことなのだと。そして、最後の『ごめんなさい』を呟いた後の――唇の動き。それは声を伴わないもので、そのときの彼には読み取ることが出来なかったが――。いや読み取ることを拒否していた。そして今、鮮明になった記憶から、その、出力された文字列と、その言葉が――。

  『私は あなたが 怖いのです』

   一瞬、ほんの一瞬の悪寒。その刹那の後狭い空間の中、頭をぶんぶんと振り、何を考えてるんだ、と愚かな自分を叱咤し、邪念を振り払う。大きく息を吸って、吐く。吸って、吐く。吸って、吐く。襲い掛かってくる情動に耐えるため、意識的に、そのような呼吸を何度も、何度も繰り返した。

  ――何故、今になってこんな事を思い出すのだろう。

   呼吸がようやく安静状態のものと近づいたとき、超越者は今自分の身に起こった現象について、分析しようとする。

   今まで自分を動かしてきた、知的好奇心というモチベーションを失って、超越者は絶対的にも近い退屈を感じていた。

   退屈。思考の空白状態。その中で一番最初に浮かび上がるのは例えどのような方面であれ、自分の関心に関わる情報であるはず。ならばこれは自分が必要とした情報なのだ。
そして、一つの憶測が浮かび上がってきた。つまりは、こんな馬鹿げた情動も、過去の感傷も、自分の望んだ事なのだと。
  ――つまり自分は、情緒、感覚質の方面にキャパシティーを広げることによって、その空白部分を補おうとしているのかもしれない。

   超越者はゆっくりと目を瞑る。瞑った後も、ただ変わらぬ、暗闇。穏やかとなった自らの呼吸と、とくん、とくんと波打つ脈動の音が聞こえる。まるでその闇に安堵を見出したかのように、その静寂に身をゆだねる。しばらくそうしていると今度は、ゆるりと揺らいで、それから昇る、大粒の泡のような――妙な浮揚感をもって浮かび上がる、もう一つの記憶。素数の女神、Σ――。初めて、彼女と出会ったときの記憶。

   紙の上に広がる数の世界を探索しているとき、時折言いようもない静けさに満たされる時があった。数式を操ることに、ことさらに浸りきっているとき、よくそれは訪れた。その静けさがだんだんとうるさいとすら思えるほどに耳の奥を満たし、大きくなっていく。するとやがて思考が澄んでいき、集中が鋭くなる――、張り詰めていて、凛とした静けさに満ちた空間にリアンは指先から浸されていく。

   そうしているとやがて、目の前に光が差し込んだように明るみ、眼前の風景が数の言葉で翻訳されていく。目の前に広がるこの情景はきっと、実際に目の当たりにしないとわからないだろう。ひどく美しい光景なのだ。

   彼女を見るのはいつも、そういうときだった。といっても肉眼で見るのではなく、ちらりちらりと断片的に――まるでサブリミナル効果のごとく断片的に流れてくる彼女の、情報。それは彼の思考の表面上には現れないが、無意識のうちにどこかで彼女の面影を感じ取っていた。そして超越者になった今なら分かる。記憶の中から、彼女の姿を見ることが出来る。見えないあなたの存在が――いつも、私とともにあった。

   その記憶はいつも穏やかなものだった。暗闇の中で、暖かな感情に浸る。彼女と時を過ごしているとき、ひどく満ち足りた気分になるのは、どうしてだろう。それは見えない彼女が、出会う前からずっと私と共にいたからであろうか。それが例え、系譜の監視という名の下だとしても。そんな事を思っていると、一筋の光が上から差し込み――そして、白金色の光が、視界を満たした。

  「……みーつけた」

   棒読みで遊戯の常套句を呟く女神。箱から差し込んできた彼女の光は、暗闇に馴染んでしまった目には眩しい。リアンはばちばちと瞬きをする。見つけられたのに、どうしてだろう何だか嬉しいような気分になっている自分がいる。――彼女は、私を見つけてくれたのだ。

  「……少し、時間がかかりすぎですよ」

  「それならば関係者以外が立ち入ってはいけない場所も区域に含めると、初めから前提に置いてもらいたいものだな。しかしお主、見つけられたのに何故笑っている?」

   言われて、自分が今笑顔になっている事に気づいた。

  「遊びって言うのは、笑いながらやるものですから」

  「そういうものなのか?」

  「そういうものです」

   箱の中の超越者へと、女神が白い手を差し伸ばした。一人で出られますよ、などと笑って超越者は言いながらも、差し伸べられたその手をしっかりと掴んだ。

   甲板の中央に、空を眺める超越者の姿があった。日もあらかた沈みきっていて、青みがかった紫色の空に星が転々と光る。少しの肌寒さが、夜を迎えることを実感させた。元いた大陸は、とうの昔に見えなくなってしまっていて、広い海の上を、ただ一人、船は走り続けていた。先ほど彼女に握られた手が、まだ暖かい気がする。それは夕暮れの肌寒さと対比してますます明瞭に感じられる。その手の平の温もりを思い出すと、胸の中が温かくなると同時に、なんだか自分の鼓動の音が鮮明に聞こえる気がした。超越者は静かに眼を閉じる。風は凪いでいてただ静かで、静かで、閉じた瞼の裏にさえまた、彼女の姿が映ってしまうような気がした。


























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