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ポップン(15多め)を中心に扱う自己満足ブログです。シグフィリとかリアシグとか大体Σ様ばっかり描いていると思われます。自己設定・解釈が顕著なzektbachについての文章も少々。 キリ番は自己申告で。(健全志向・管理人の描けそうなジャンルでお願いします) なおこのサイトは二次創作サイトであり、製作者様とは一切関係がありません。 ご理解の上で当ブログを閲覧するようにお願いします。
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リアシグ連載、第三部。ここが本編―後編にあたります。

空舟の遺跡に向かい、大陸を渡る船に乗った素数の女神と超越者。これから始まる船旅、その始まりに、超越者は意外な面を見せ始める。

※何回もの記述申し訳ありません、この連載は「平面で交わる、二つの」→「1/fの」→現在書いている船の上の話(この話含めて三部)の構成で連載されています。記事通りの順番になっていないため読みにくいことを、大変申し訳無く思います。小説カテゴリから飛ぶと少しは読みやすいかもしれません。









静寂の間に揺らぐ、揺籃







   船は速度を増し、ぐんぐんと、大陸が遠ざかっていく。自身もその揺らぎを受けつつ、船は飛沫を上げながら波を切り進む。時折揺れる床をバランスをくずさまいと踏みしめるが、海水に浮かぶ船の床はやはり大陸と違ってどこかふわふわとしていて頼りない。まあじきに慣れるだろうとひょいひょいとバランスを取りながら歩きつつ、リアンは舳先に立っている女神、Σの方へと駆け寄る。

 「少し、揺れますね」

 「ああ、今は風が強いからな――。最も空の様子をみたところでは、じきに弱まると思われる」

 「そうですね」

   相槌に少し微笑み、リアンは小首をかしげて返し、隣に立つ叡智の化身の横顔を眺める。白んだ顔が朝の光を浴び、青の目は眩しそうにわずかに伏せっている。風に吹かれて、睫毛が揺れるのがふと見えた。二人して、海を眺め続ける。もう何回眺めたか分からないそれ。しかし今度は障害物の何も無い、地平線の広がる大海原である。小さくなっていく港町と、切り開かれた白波の残骸を背にしながら、船はますます速度を上げ、進んでいった。



 「超越者、お主に質問があるのだ」

   しばらくの時が立ち、女神が口を開く。何ですか?と超越者が返事を返した。

 「何故、この旅に我を連れてきた?」

   リアンは女神の目を見つめ、ぱちくりと瞬きをする。次の言葉を紡ぐため、女神は息をひとつ吸い、言を続けた。

 「何故お主は『この神殿から出よう』と言った?お主は超越者の刻印と名を受け、示された道は明白のはず。既に役目を終えた我が存在はこの旅に不必要だろう?この旅の時間の中、幾度も自身で考えてみたけれど、どうしてもこの解が見いだせなくて当本人であるお主に直接質問するに至った」

   ろくに息継ぎもせず、文章を読み上げるかのごとく女神はとうとうと話す。超越者は少し悩んだ様子で、顎に手を当てて少しの間考える姿勢をとる。

 「うーん、上手く説明できないんですけど――。あなたの目を見たとき、ここから連れ去って欲しいと言っていた様に思ったのです。あなたの目が、この神殿という箱から連れ去ってくれ、と――。」

 「…………?」

   ぽかんとあっけにとられたような顔をしている女神。それもそうである。自分だって今言った言葉がどんなにか根拠も何もなく、論理的判断からかけ離れているのかよく分かっている。自分だって、どうしてこんな風に言ったのか解らない位なのだ。妙に焦った気持ちがリアンの胸中を支配する。でも、どうしてもそう思えて仕方ない――。混乱した思考の堂々巡りから立ち直るまでの間、素数の女神が何回瞬きをした事だろう。

   暫しして冷静になった後、眼前の女神を眺めると、気のせいかその瞳が物憂げに伏せられているように見えた。先程の言葉に何かを思ったのだろうか。失言をしてしまったかもしれない。リアンはその表情を見て心を痛ませ、申し訳ない気分になった。

 「超越者、リアン……」

   女神が、口を開く。

 「その、だな……」

   呟き、白い肌をした顔をますます白ませながらΣは片手で口元を覆い、くぐもった声で言った。ひどく、痛ましげな表情。

 「……さっきから、船の振動による、悪心が……」

 「ああ、つまり船酔い、ですね……」

   瞬間、その場でつんのめりそうになった。

 「そろそろ船内に入りましょう。日差しも強くなったことですし、船内で休めば少しは良くなるでしょう」

   女神はもう何も言えず、ただ首を縦に振って返事をする。ぐったりとなった素数の女神を引き連れて、リアンは船内へと向かう。顔には出さないが、心の中では思い切り引きつり笑いをせざるを得なかった。



   禁忌と言い伝えられた大陸に近づくものは、ほとんど誰もいなかった。故に、船内はがら空きで長期便ゆえ船の大きさはそこそこの規模があるにも関わらず、船に乗っている者たちは、わずかの乗組員と、極地に赴く考古学者が離れの部屋にいる程度だった。がらりとした空間と、それから繋がるたくさんの空き部屋。超越者リアンは、女神を先導しながらも何故か挙動不審とばかりに辺りを見回している。目は落ち着きの無い子供のそれのようにきょろきょろとせわしなく動き回り、足踏みすらしている。

 「どうした、超越者?お主も具合を悪くしたか?」

   女神が尋ねる。先程に比べれば、随分気丈そうな声だ。顔色は未だ青白いが、船内に入り振動が弱まったことが大分精神面をよい方向へと向かわせてくれたらしい。

 「いえ、そうではなくてですね」

   なおもきょろきょろと船内を見回す超越者。目はきらきらと輝いていて、今から遊戯にいそしもうという子供のそれである。 

 「この空間に、ひどく好奇心を駆り立てられまして。広く未知の空間。たくさんの空き部屋。こういったところに行くと、無性に色々と見て回りたくなって――。つまり、探検がしたくなりませんか?」

 「好奇心が、随分と旺盛なようだが」

 「だって好奇心が無いと、良い学者にはなれませんよ」

   そう言ってぴょんぴょんとしながら辺りを見回す超越者。幼いとすら言えるその行動は、彼の知を絶えず追い求め、知ろうとする純粋な探究心と繋がるものがあるのかもしれない。

 「ならば行って来るが良い。我は自分の部屋で休んでいるゆえ」

 「存分に、探検してくるが良い」

   そう言って、リアンに顔を向けたときのその表情は、どこか優しく思えた。

   Σは、自らの部屋で体を休めていた。彼女の使う部屋は船の中央に位置していて、揺れが少ないのが有り難かった。小さな揺れに少しずつ身をゆだねていると、大分気分も良くなってきた。明るい日差しと潮風の香りが、開け放たれた窓から訪れる。
   しばらくするとばたばたばたと大きな足音が、船内に響くのが聞こえた。そのせわしない音は部屋の前で最大になってから、それからぴたと止まる。ばたんと威勢良く、扉を開く音が部屋に響く。

 「すみません、お待たせしました!」

   超越者は息を弾ませ、生き生きとした表情で謝罪を述べる。服や髪、体全体と埃をかぶっていて、頬にはすすがついている。女神の雷光の髪が一度、ばちりと火花を放ち、それから問いかける。

 「一体何故そんな格好をしておるのだ……」

 「いえ、実は地下の倉庫をこっそり探検しておりまして」

   照れ臭そうに超越者は頭を掻き、笑う。こっそり。成る程無許可か。超越者のいささか悪童じみた行動。かき払った髪の揺れに、ふわりと舞った一筋の蜘蛛の糸を、女神はすと手を伸ばしつまみ取ってやる。

 「頭に蜘蛛の巣の糸を絡ませたり、屋内で走りまわったりするのは、例え超越者の品格云々を問わんとしてもどうかと思うが?」

   呆れたように言い、それからリアンの肩を引き寄せ、手の平でぽんぽんと埃を払ってやる。肩に伝わる控えめな手の温もり。何だかぽーっとなって、されるがままになっていた。

   緩慢な思考、そしてその一瞬、不意に、まるで水中から鮮やかな速度で滑り、水面に浮かび上がる泡のように浮かび上がった言葉。

  ――母というものは、こういうもの、なのだろうか?

  「……どうした、超越者?」

   Σが、顔を覗き込む。

  ――わからない。だって、確認のしようがない。

 「あ、いえ、ちょっとぼーっとしてただけです、すみません」

   母、か――。

   母親。それは彼にとって全く未知の概念だった。超越者は、緩やかに目を閉じる。だが、ただこの女神に小言を言われながら、伸ばした両腕の中に収まり服をぽんぽんとはたかれるがままにされているこの時が、とても穏やかに思えた。肩に置かれたその手は、女性故の低体温かはたまた非生物であるが故か、それほど温かいわけではなかったのだけれど何故だかその僅かな温もりが、体に染み渡った。



   これも知恵の刻印の故だろうか。リアンは生まれて間もない頃の記憶も、鮮明というには少し曖昧なところが一部ばかりありつつも、そのほとんどを覚えている。記憶の中にいる母は常に悲しみに打ちひしがれ、項垂れ、突然与えられた母という責任に、戸惑っていた。理不尽な理由で最愛の夫を奪われた、哀れな人。

  ――哀れな、人。

   気づけば、リアンは自らの顎に手を当てていた。そして、今しがた浮かんだその言葉についての真意を自分に問いかけた。いかなる感情を以ってして、実母にその形容を冠したか。――お前のお母さんを、恨んではいけないよ。義父であるゲッティンゲンは、リアンに初めて実母の話をしたとき、そう話していた。それはリアンもよく理解していたつもりだった。嘆きの中架された、あまりにも重い枷。それは独りとなった彼女に耐えうるものではなかった。そう、あまりにも、重すぎる、枷だったのだ。

   母はどんな顔をしていただろうか。記憶の中の母は、視線が合えばわずかおののくような様子を見せ、それから申し訳なさそうに目を反らしていた。赤子である自分の視線に、母は怯えているように見えた。あの子の目は、何か普通とは違うように思えます。リアンが眠っていると思っていたのだろう、そんなことを、様子を見に家を訪れたゲッティンゲンに零しているのを、揺りかごの中で聞いたことがある。あの子の目を見ていると、何もかも見透かされているような気になります、と。思えば、リアンの特殊性を一番最初に見抜いたのは他ならぬ彼女だったのかもしれない。



 「ところで船酔いは大丈夫なのですか?」

   自らの逡巡する様子に、素数の女神がわずかその瞳に不思議そうな色を見せているのに気づき、リアンは話題を変えるため、質問を振る。

 「ああ。船内だと大分違う。体も適応し始めている。しかし驚いたな、このような事態も想定された上で作られているとは。自分の体ながら驚きだ。本来我の存在は神殿より外に出ることは想定されていないはずなのに――」

   顔色こそ変わらないが、素数の女神は自らの驚きを正直に告白していた。彼女と言う存在は、普段は不自由なほどに理路整然とし、まるで一つのアルゴリズムかのような振る舞いをするというのに、時折人間的な仕草がぽろりと零れ出る。それは見ているリアンにも不思議で仕方がなかったが、彼女自身もその差異に揺らぎ、戸惑っているのだろうか。

  「それも、ある種の適応と言えるのかもしれませんね」

   それは、まるで、彼女が、今までどこか手の届かない世界にいたのが、少しずつこちらの世界の『ひと』になっていくようで、それが何となく嬉しい。

   無意識に、口元が緩んでいたらしい。女神が自分の顔へと視線をよこしていた。どうして今笑ったのだ、超越者?彼女の目はそう訴えかけていた。この旅で随分と、彼女の意思を汲み取るのが上手くなったものだと、我ながら思う。

 「それから随分と退屈をさせてしまって申し訳ありません。そこで提案があるのですが、女神様――」

 「病み上がりに無理をいっていると思われるかもしれませんが――もしよろしければ、こちらの戯れに少し付き合っていただけませんか?退屈よりは、良いと思いまして」

   女神の瞳の色に、疑問の色が宿った。それから顔色一つ変えない、超然としたとすら言えるその表情で、超越者に問う。

 「退屈に良いも悪いもあるのか?良く解らぬな。」

   開け放たれた窓から、潮風がそよぐ。少し強くはあるが心地よいその風が、女神の髪を仰ぎ、繊維の一筋一筋を空に舞わせた。煽られた髪の流れに乗って、火花が鮮やかな色を放ちながら爆ぜる。その中で、彼女の髪は、いつもより逆立っているように思えた。

 「それでつまり、本題は何なのかが、聞きたい。急かす気はないが不透明な言い方だと意思の伝達が不便だろう」
 
 「えっと、いや、そのー……」

   超越者は困ったように口をつぐんで、もじもじする。

 「そのですね」

   それから照れくさそうな顔をしながら、やがて意を決したようで、口を開いた。

 「この船の中は、人が少ないにも関わらず、長期便故にとても広いですよね」

 「この広い船内。数々の空き部屋や機関。この空間を利用した遊戯――つまり『かくれんぼ』をやりたいと思ったのです」

 「ルールは、ご存知ですよね?」

   かくれんぼ。女神は自身の思考の中からその名詞にあたる情報を検索する。成る程、理解の範疇内の遊戯である。ああ、とΣは肯定の返答を返す。だがそれより理解しがたかったのは超越者の提案である。空間把握の模擬ですよ、等と目の前の少年は言っているがどう考えても自分が遊びたいだけだ。彼女の認識が正しければ、その遊戯は彼の年齢よりもっと幼い子供がたしなむものだったはずである。しかし今までルフィナの命によって行動してきた彼女である。その意思を継いだ超越者には、規則上従うべきかと判断し、Σはその提案に乗る事にした。





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